A. 共有のリスクを十分理解する必要があります。
相続登記の相談を受けていて、依頼者の方からこう言われることがあります。
「登記は共有名義にしたいです。公平にしたいので」
一般的な感覚からすると、不動産を共有名義にすることが公平にかなうというのはよくわかります。しかし、不動産は、共有にすることは好ましくないものとされ、さまざまなリスクが考えられます。
この記事では、不動産を共有名義にすることのリスクについて解説します。
※本記事は、公開時点での法令等に基づいて作成されております。最新情報については、専門家にご相談いただくか、ご自身でご確認ください。
共有の5つのリスク
不動産を相続で共有名義にすることは、手続上簡便という利点があります。
※法定相続分の割合で相続登記をする場合、遺産分割協議書や相続人の印鑑証明書が不要となります。
しかし、長期的にはさまざまなリスクが考えられ、結果的に後悔することになるケースも少なくありません。代表的なものは以下のとおりです。
- 意思決定が困難になる
- 売却するのが難しい
- 管理費等の負担に関するトラブル
- 認知症等で不動産を動かせなくなる
- 第三者の介入リスク
順番に説明します。
意思決定が困難になる
共有物は、処分や変更(売却など)をするのに共有者全員の同意が必要となります。
つまり、共有者の一人が反対するだけで物事が進まないことになります。
話がまとまらなければ、その間に建物が傷んで売却時の価格が下がるということも考えられます。
売却するのが難しい
共有者は、他の共有者の同意を得なくても、自分の持分だけを売ることはできます。
しかし、共有持分は買い手がつきにくく割安になりがちです。
他の共有者が持分を買い取ってくれればいいのですが、そこで話がまとまらなければ、訴訟で解決する方法をとらざるを得ない場合もあります。
管理費等の負担に関するトラブル
固定資産税・修繕費・維持管理費などを誰がどの割合で負担するかで揉めやすいという問題があります。
特に一部の共有者だけが不動産を利用して他は利用しないような場合は、費用負担についてはきちんと明確にしておく必要があります。
租税公課については、基本的には持分の割合に応じて負担することになりますが、滞納が生じた場合は、自分の持分を超えて支払う必要があります。
認知症等で不動産を動かせなくなる
共有者の一人でも認知症等で判断ができなくなると、不動産を売却したり担保に提供して融資を受けたりすることができなくなります。
この場合、成年後見人の選任申立という裁判所の手続を経なければなりません。
不動産を共有することは、こうしたリスクを増大させることにもつながります。
第三者(債権者・買主)の介入リスク
共有者の一人に借金があって、持分が差押えられるおそれもあります。
また、先述のとおり、共有者は自分の持分を他の共有者の同意なく売却することができますので、まったく知らない第三者が持分を取得し、共有関係に入ってくる可能性があります。
その結果、共有持分の買取を迫ってきたり、訴訟を提起される場合もあります。
共有を選ぶべきでないのは?
上記のようなリスクを承知のうえであれば、共有を選択するのも一つの方法かもしれません。
しかし、以下のような場合は、共有を選択するべきではありません。
- 利用の意向が明確に異なる相続人がいる
- 共有者の中に金銭トラブルを抱えている者がいる
- 維持管理費が共有者間で確実に負担されない見込みがある
将来トラブルになることが目に見えているからです。
こうした場合は、安易に共有にするのではなく、代償分割や換価分割など「共有にならない方法」を優先して検討する方が現実的です。
まとめ
司法書士は、基本的には、遺産分割の内容に立ち入ることはありません。
しかし、依頼者の方の判断が、将来的に法的なリスクをはらんだものである場合は、そのリスクについて承知したうえでの判断であるか、他の手段についても検討したうえでの判断であるかを確認することは、専門職としての責任でもあります。
不動産を共有名義にすることは、一見すると、相続人間の公平にかなうように見えますが、実はさまざまなリスクがあるため、基本的にはおすすめできません。
相続人間の公平を実現するための方法は他にもありますので、詳しくはお近くの司法書士や弁護士にご相談ください。
なお、すでに遺産分割の内容に関して相続人間の争いが顕在化しているような場合は、司法書士では対応いたしかねますので、弁護士にご相談ください。
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